悩める東大生の休学タビ記録

人生に悩んだ東大生が、休学して世界中を旅した経験を綴ったエッセイブログ。

「カルチャーショック」サンクリストバル・デ・ラス・カサス|中南米エッセイ6

でもきっとそれは、羨ましいと感じている自分の本音を誤魔化すための言い訳だったのだと思う。

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〈前回の記事〉

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1. 助手席に2人

シポリテの次の目的地は、サンクリストバル・デ・ラス・カサス(以下サンクリ)というメキシコ南部チアパス州の町だ。

 

夜にシポリテを出てサンクリに向かうには、まず乗合タクシーを利用して、少し北にあるポチュトラという町へ行き、そこのバスターミナルから夜行バスに乗り換える必要があった。

 

僕は町外れの道路脇で乗合タクシーを待っていた。いつくるともわからないタクシーを暗い中1人でポツンと待つのは、どこか心寂しかった。バックパックを下ろして、道路の向こう側の暗闇から、車のヘッドライトがやってくるのを、ただじっと待っていた。

 

10分くらい待っていると、町の方から、酔っ払った若い声が聞こえてきた。高校生くらいの男女カップルだった。女の子の方が酔っ払っていて、男の子がやや呆れている感じだった。女の子は少し太っていたけれど、お酒の入った屈託のない笑顔で彼氏に甘える姿は、とても若々しくて可愛かった。

 

彼女は道端にいる僕を見つけて、にっこりとして、「あなた名前は?」と聞いた。

彼らは隣町に住んでいる大学生だという。3人でお互い自己紹介したところで、僕が乗合タクシーを待っているのだと言うと、彼らも今から乗合タクシーで地元に帰るということで、一緒に待とうということになった。女の子の名前はセイといって、男の子の名前はコルへといった。

 

それからまた10分くらいしてタクシーはやってきた。助手席に1人男が乗っていたので、僕ら3人は後部座席に乗り込んだ。

5人乗りのタクシーはこれで満員かと思われたが、道中で手を挙げている女性がいて、タクシーは止まった。驚いたことに彼女は助手席に乗り込んだ。そう、助手席に詰めて2人の客が乗り込んだのだ。カルチャーショックだった。

 

タクシーがもう少し進むと、隣でキスをしている音が聞こえてきた。なんと表現すればいいのだろう。それはとても上手なキスだった。空気の含み方が素敵で、唇からこぼれ落ちてくる音の一つ一つに愛情が詰まっていた。(カルチャーショックだった。)

僕は、車窓を流れる夜の雑木林を熱心に見ているフリをしながら、その音を聞いていた。「あーあ、これは彼女側の愛情が強すぎて、男側が疲れちゃうパターンだな」とお節介なことを考えていた。でもきっとそれは、羨ましいと感じている自分の本音を誤魔化すための言い訳だったのだと思う。

 

 

 

2. 政府公認の売春地?

サンクリは、沖縄の赤瓦が経年劣化したような特徴的な屋根と、赤や青のカラフルな塗装からできた家が並ぶ可愛らしい町だ。グアダルーペと呼ばれる歩行者天国は完全に観光地化していて、どの店も値段が高かった。

 

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日本人宿アレグレのおすすめや、サンクリ周辺に点在する村の日曜市、サンファンチャムラにあるとてつもなく神聖な雰囲気を放つ教会など、話すべきことはたくさんある気がするのだが、とりあえず僕が語ろうと思うことは、売春地についてだ。

 

それは宿の情報ノートにのみ書かれていた情報で、ネットには載っていない。情報ノートにも、ネットには書くなと書いてあった。だから、様々な情報は伏せた上で、その体験だけを語りたいと思う。

それはサンクリにあるわけではなくて、サンクリから少し離れた町の、しかも少し山に入ったところにある。

そこは政府公認の売春地で、値段は50ペソから350ペソほどだと言う。日本円にして、300円から2000円ほどに相当する。

 

 

僕を乗せたタクシーがそこにたどり着いた時、時間は夜の21時前だった。(今考えると結構危ない時間に出歩いている。)

森の外れのような場所にあるその入り口で入場料10ペソを払うと、警官2人による入念な荷物チェックが行われた。

 

そこは平屋の団地みたいな空間になっていた。雰囲気としても、その辺の普通の団地みたいだった。1棟12部屋ほどの建物が、全部で20棟くらいあった。

 

それは不思議な空間だった。そこには、本来風俗街にあるはずの、ギラギラした男性的欲望があまり渦巻いてはいなかった。男たちは道端に設けられたアルコールの売店でビールを買い、プラスチックの椅子に座りながらただいつも通り酒を飲んでいるだけだった。各部屋で待機している女の子を真面目にチェックしている男は、ほんの数人しかいなかった。まあ実を言うと、この場所は21時に閉まるらしく、そのせいで終業ムードだったのかもしれない。

 

少し面白かったのは、各部屋で待機している女の子が自ら箒とホースを持って、部屋の前の地面を掃除し始めていたことだった。

僕がメキシコの激安風俗街に来てしたことと言えば、25ペソのボヘミアビールを買って、そんな掃除風景を眺めることだけだった。

 

情報ノートの怪しいアンダーグラウンド情報を確かめて満足した僕は、ビールを飲み終えると、そそくさと売春地を出て、目の前に止まっていた乗合バンに乗り込んだ。

他の男性客と乗合いするわけだが、これまた面白かったのは、仕事終わりの女の子たち自身も一緒に乗り込んできたことだった。さっきまで売春婦と客だった関係が、満員バンの中でお互い気にせず家路に向かっているのには違和感を感じた。いや本来は当たり前のことだとは思うのだが、なんだかカルチャーショックだった。

 

(カルチャーショックの使い方を間違えているかもしれない。僕は日本の風俗の勤務形態がどうなっているかなんて、つゆほども知らないから、この場合ショックを受けるべきカルチャーがないからだ。…我ながら、なんとも理屈っぽい。)

 

 

 

〈フォトギャラリー〉

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グアダルーペ

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サンファンチャムラ

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シナカンタン

 

〈あとがき〉

フォトギャラリーでシナカンタンの写真をあげていますが、サンクリの周りの村では村ごとに決められた民族衣装があって、だから写っている女性たちはみんな同じような服を着ていますよね。

ただ、現地の人は写真を撮られることを嫌がるとのことなので(僕だって海外の人に露骨にパシャパシャ撮られたら嫌だ)、実際に行かれる方はちょっと注意してください。

(人を被写体にするんじゃなくて、市場全体を被写体にするのはセーフかと僕は思ったのですが…)

 

それからサンクリの近くには、サパティスタというテロリストの村もあって、驚くことに、現在はサイバーテロメインであまり武装していないので、内部見学が可能らしいです。ストリートアートとかあるらしい。行ってみたかった。

 

 

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