悩める東大生の休学タビ記録

人生に悩んだ東大生が、休学して世界中を旅した経験を綴ったエッセイブログ。

番外編エッセイ「コンビニ」

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深夜の蛍光灯に照らされた湯気からは、カップ焼きそばの誘惑的な匂いが立ち込めた。

ぼくは午前2時過ぎのコンビニで、独り夜食を食べていた。

 

 

一年間の休学と冒険の数々を終えたぼくを待っていたのは、就職活動という名の大人の世界への入り口だった。

外資系の就職活動は、大学院進学とほぼ同時にスタートだ。

日系企業だって、選考には影響しないと言いながら、インターンシップを開催する。

 

ワイシャツを着て、ネクタイを締めて。

前髪が眉毛にかからないように、整髪料できっちり髪型をセットする。

面接官に活発な印象を与えるために、いつもより元気よく声を出す。

嫌ならやらなきゃいい。

…全く、その通りだ。

 

「お前さ、休学してた時の方がポジティブだったぞ」

先日、友人にこんな言葉を言われた。

 

これから社会に出て、ぼくは大人になるのだろうか。

大人になったぼくを想像する。

頭のずっと奥の方で、子供のぼくが大人のぼくに微笑みかけている絵が浮かんだ。

 

 

店内に中国語の会話が響いた。

よく深夜にコンビニに来るぼくは、いつもこの時間に働いている中国人2人と顔見知りになっていた。

 

彼らはなぜここで働いているのだろう。

日本で働きたくて働いているのだろうか。

それとも日本で働く必要があって働いているのだろうか。

そこにはどんなエピソードがあるのだろうか。

 

焼きそばを食べ終えて、口の中にはソースの甘さが重く残っていた。

目を閉じた。まぶたの裏側に、今まで旅をしてきた世界中の風景が映し出された。深夜のコンビニから、世界へ飛んだ。

 

中世ヨーロッパの赤い屋根。

ゆったりとした田舎町から見上げた広い青空。

ジャングルに埋もれた1000年前の遺跡。

陽の光が遠くに感じた水深30メートルの静寂。

砂漠から見た降ってくるような天の川。

朝日に照らされ真っ赤に燃えたあの岩山。

 

世界を旅したからこそぼくは知っている。

想像を超えたスケールの大きさ。

そして、異国の地で生きていくことの大変さ。

 

日本のコンビニで働く彼らを想うと、少し前に進めそうな気がした。

ぼくも自分自身の守りたい日常のために、まだまだ頑張らなきゃいけない。そう思った。

 

壮大な世界はいつでもぼくの側にあった。

子供のぼくが、その場所からぼくに手を振っている。

ぼくは大人になっても、もう決して君のことを忘れはしない。

ぼくは君を見捨てて大人になるんじゃない。

君の上に、大人の部分を積み上げていくんだ。

またしばらくしたら一緒に旅に出よう。

 

東京の夜の郊外。

立ち上がって伸びをして、帰路についた。