悩める東大生の休学タビ記録

人生に悩んだ東大生が、休学して世界中を旅した経験を綴ったエッセイブログ。

「エリート」ハノイ|東南アジア旅エッセイ⑥

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ラオスの国境審査が終わると、ベトナムの入国審査までラオスでもベトナムでもない場所を5分ほど歩かされた。ここでも、入国審査が終わると「ワンダラー」とお金を要求された。面白いことにちゃんとお釣りをくれた。なんて律儀な賄賂なんだ。

 

 

《前回のあらすじ》

現地人よりも観光客が多い気がするバンビエンで、僕はひとりブルーラグーン3に向かって自転車を漕いだ。それは究極に自分との闘いであって、どうしても負けるわけにはいかなかった。

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1. バス移動32時間と韓国人の青年

バンビエンの町にいくつかあるこじんまりした旅行代理店で、バンビエンからベトナムハノイまでのバスの切符を買った。

朝9:30頃にバンのピックアップが来た。

まさかこの車でベトナムハノイまで行くわけじゃあるまいと思ったが、案の定12時半頃にラオスの首都ビエンチャンで降ろされて、16:30頃のバスに乗り換えるまで時間を潰してくれと言われた。

 

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時間になって、バスターミナルに連れていかれた。赤や青のケバケバした電光掲示板を持つ大型のバスが何台も停まっていた。ビエンチャンからハノイまでのバスはスリーピングバスという形態で、リクライニングシートを倒しきって横になったみたいな座席が2段ベッドのような形式で三列ある。通路を挟んで2列側になっている座席の通路側下段が僕の席だった。

 

隣の席には18才の韓国人の男の子が入った。毛先が癖になっているタイプの七三分けで、目はキリッとして鼻筋も通っている。キザな感じはするけれどかなりの好男子だった。昨年一年間をイギリスに留学していて、イギリス訛りの美しい英語を話した。今年は親にお金を仕送りしてもらいながら旅をしているのだという。名はジュンソ(仮)と言った。

 

なぜそうなるのかイマイチ僕らには理解できなかったが、道中はバス車内にも赤や緑の煩わしい色の電気がついていて、ジュンソは眠れないと文句を言っていた。実はタイで出会った旅人に、ラオスからベトナム入りするバスは辛いことがたくさん起きるから覚悟しておきなと言われていたので、内心少しビビっていた。案の定車内でちっちゃい子が吐いてしまい、それが少し僕の荷物にかかってしまった。誰も悪くないし、子供とはそういうものだし、イライラしたりしたわけではないけれど、これから先まだ24時間近くある道のりが思いやられた。

 

 

 

2. 律儀な賄賂

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ベトナムの入国審査には審査官に対する賄賂が必要だと言われていた。賄賂と言っても米1ドル、日本円で100円ほどである。

 

僕らの乗ったバスは深夜2時に山間にあるラオスベトナムの国境に到着した。しかし国境の営業時間(営業時間という語彙がこの場合正しいのかはわからないけれど)は朝の7時からということで、バスはただ停車し、近所のコンビニに溜まっている男子高校生みたいな乗組員たちは「朝まで寝て待て」という。だったらなぜ朝7時に国境に到着するように出発時間を調整しないのだろうかと思った。

 

朝国境が開くと、まずラオスの出国審査が始まる。夜のうちに他にも何台かのバスが到着していて、わりに混み合った。先に言っておくと、賄賂はラオスの出国時とベトナムの入国時の2回必要だった。賄賂と言っても、出国審査のカウンターみたいな所に手数料1ドルといった感じで堂々と明記されているから、知らなければそれが賄賂であるとは気がつかないと思うし、変な話だけど僕自身あれが本当に巷で言われるように賄賂だったのかどうか正直自信が持てない。

 

賄賂の存在を知らなかった幾人かの外国人は現金を全て使い果たしてしまっていたから、支払える現金がなく混乱してしまっていた。当然カードも使えるわけがない。ひとりの青年は、この賄賂受け取りが国際法に違反しているから自分に支払いの義務は無い、と正面切って文句を言っていた。そうかと言ってここはラオスベトナムの国境であり、払わなければ出国させてくれないのだから、大人しく誰かに借りる他無い。そもそも審査官だって英語が流暢に話せるわけではないから、抗議が伝わっているかどうかすら甚だ怪しかった。

そして、ジュンソも現金を全く持たない人のひとりだった。半ば仕方ないなという気持ちで僕は彼の分も払った。

 

ラオスの国境審査が終わると、ベトナムの入国審査までラオスでもベトナムでもない場所を5分ほど歩かされた。ここでも、入国審査が終わると「ワンダラー」とお金を要求された。面白いことにちゃんとお釣りをくれた。なんて律儀な賄賂なんだ。

 

 

その後、長時間のバスにも慣れたもので、人生について振り返り、本を読み、携帯にダウンロードしておいた映画を見て、そして寝る、ということを繰り返していたらあっという間にハノイに着いた。その日の昼食がスプライト一本だったのだけが辛かった。

 

 

 

3. エリート

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僕は「エリート」という言葉に対して、いくつか思うところがある。それはそのうち何かの形で纏めたいと思っているが、骨子だけ概説すると、世間一般的な「エリート」は少なくとも僕が思う〈エリート〉ではないということである。

 

ところでこれから話すのは僕が一種のエリートを感じたエピソードであって、これが僕の目指す〈エリート〉なのかというと、首を傾げざるを得ないのだが、一つのお話としてここに記しておきたいと思う。

 

ハノイは政治の中心地で南北に細長いベトナムにおいて北に位置する。経済の中心地はホーチミン(あるいはサイゴンと呼ばれる)で、南に位置する。ちょうどアメリカでいうワシントンD.C. とニューヨーク、オーストラリアで言うキャンベラとシドニーのような関係である。したがって(という接続詞が適切かどうかは怪しいが)、ベトナムにおいて巨大な資本の影響はホーチミンに最も大きく、ハノイは比較的昔の名残を留めた都市である印象を受けた。

 

宿はホアンキエム湖の北側、旧市街の中にあった。さすがベトナム、原付の交通量は凄まじい。アジア風の建物と仏風の建物の入り混じる街路が迷路の様にくねくねと広がり、頭上は無数の電線と良く生い茂った木々で雑多に覆われていた。裾野の広い円錐形の笠を被り、皿の部分に野菜を積んだ天秤状の棒を肩に担いだ人々が横を通ると、「ああこれこそベトナムだ」という風情を感じた。

 

ハノイに着いた翌日、ジュンソと待ち合わせして夜ご飯を食べることにした。旧市街の一角の軒先に、プラスチックでできた背の低いテーブルとお風呂場で使うようなこれまたプラスチックの小さな椅子を並べた食堂があった。この手の食堂にしては人がたくさんいたので、僕らはきっと美味しいに違いない、と席に着いた。焼き魚とフランスパンをとった。

 

ジュンソは「あの時君が僕の分の賄賂を支払ってくれなかったら、僕は今頃ここにはいられなかったかもしれないのだから、お礼がしたい。ここの代金を払わせてくれ。」と言った。彼は親からの仕送りの下比較的余裕のある旅をしていたが(事実僕が一泊300円ほどのドミトリーに泊まる一方、彼は1000円ほどではあるもののホテルの一室をとっていた)、そういうのは僕からしたら微塵も関係ない。そもそも僕だって似た様な生活を送っているし、旅先では困ったらお互い様。それに自分より4つも年下のやつに奢られるわけにはいかない。僕は断固として断った。

 

しばらく他愛もない会話をしていると、ジュンソは「ちょっとタバコを吸ってくる」と席を外した。なんともまあ可愛げの無い18才である。5分ちょっとして帰ってきた。「どうだいこれからクラブでも行かないか?」と言ってきた。やれやれ本当に可愛げが無い。僕は次の日朝から世界遺産ハロン湾を見に行く予定だったから、あまり遅くまで起きているわけにはいかなくて、「今日はやめとくよ」と言った。とにかく、会計を済ませようと思って、僕がお店の人を呼ぼうとすると、彼はこう言った。

「もう払っておいた」

僕は上司に食事に誘われたOLか何かなのだろうか。年上との食事で、タバコを吸いに行くフリをして会計を済ましておく18才なんて一体どうやったら育つのだろう。やれやれ。

 

宿に帰る前にコンビニに寄って、僕が2リットルのミネラルウォーターを買っている間、ジュンソはコンドームを買っていた。そうして僕は宿に帰り、ジュンソはクラブに向かった。全く、本当にやれやれだ。

 

 

 

変な話だけど、これが僕がエリートを感じたエピソードなのだ。

イギリス英語がペラペラで育ちもルックスも良く、若いうちから海外に出る大切さを知り、キザに会計を済ませられ、タバコを吸い、女の子の引っ掛け方も知っている18才を、エリートと呼ばずなんと呼べばいいのか。

最近はSNSでの彼女アピールがいささか煩い気もしなくはない。やれやれ。

 

 

 

《あとがきと写真》

 ハノイでは他にも路上で手品談義をしている少年たちに出会ったり(僕はかなりの手品愛好家なのだ)、ハロン湾で素敵な日本人の夫婦に出会ったり、膨大な数の偽物の旅行代理店(有名な本物の旅行代理店と看板や名前が全く同じ)に翻弄されたりと、他にも書くことがある気がするので、気が向いたら番外編的にちょこっと書きます。

 

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