悩める東大生の休学タビ記録

就活に悩んだ東大生が、休学して一人旅に出る。そんな旅の記録。

「生活の灯火」グアナファト|中南米旅エッセイ②

そのモザイクタイルの一つ一つに人々の生活が宿っているのだと思うと、人々の営みの歴史の重さがひしひしと伝わってくるようだった。

 

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〈前回のあらすじ〉 

みんなに心配され、自分でも内心怖がりながら、それでも期待に胸を踊らせて到着したメキシコシティ。休学最後の旅が、始まった。 

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1. ケミカル系薬物

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メキシコシティではまず、宿に泊まっている日本人の人に、メキシコシティの情報から始まって、中南米全体の情報を教えてもらった。普段はそこまで日本人宿に泊まらないが、中南米は英語が通じなかったり、日本語の情報がガイドブックやネットに載っていないことが多く、この後も行く先々で日本人宿でお世話になり、その都度情報を収集した。

 

少し先走ってしまったが、メキシコシティの話に戻ろうと思う。まず最初に僕が気にしたのは治安だ。実は宿の近くすら、売春をする立ちんぼや、マリファナを吸っている人が夜になると出没するらしい。

また、世界中いろんなところでマリファナは手に入るが、ここメキシコシティのテピトという地区ではマジックマッシュルームなどの他、MDMAや覚醒剤と言ったケミカル系の薬も手に入るのだという。もちろんその地域の治安はとても悪いらしい。

実はマリファナに関して正直に言えば、煙草などよりも依存度が低く、また健康的にも害が少ないと言われたりするので、旅人の間では(日本人の間においてさえ)それなりに受け入れられている部分がある(ように思う)。一方でそんな旅人の間ですら、ケミカル系の薬は一度やると依存してしまって帰ってこれなくなるから絶対にやるな、と言われることが多い(ように思う)。しかし、このテピトの情報を教えてくれた人曰く、ケミカル系も一度や二度の服用ならば大丈夫だと言う。

 

これは非常に難しい問題だと僕は思う。つまり、物事を自分の頭でしっかり考えようとするとき、既存の善悪の価値観は一度脇に置いておいて、生の情報や経験を得なければいけないと思う一方で、物事には限度というものがある。この限度について、すなわち、このような思考の一線をどのような場所に据えるかということについて論理的に議論しきることは果たして可能なのだろうか。

その一線をどこにおくか、どうバランスを取るのか。それは結局個々人の判断に委ねるしかないのだ。

 

僕としては、ケミカル系に手を出すのは、限度を超えていると思う。でも、自分の経験していないことについて断言する場合、そこにはある程度想像力を行使する余地の確保が必要だし、そしてそこに付け込まれない芯の強さが必要だと思う。たとえそれがドラッグのような法律的にアウトなことが明らかなものにおいてさえ。

 

 

 

2. アメリカ大陸

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メキシコシティでは土産市へ行ったり、バスで1時間弱の場所にあるテオティワカン遺跡に行ったり、国立人類学博物館に行ったりした。今まであまり理解していなかったが、メキシコの歴史の中には、有名なマヤ文明以外にも、アステカやオルメカなどのいくつかの文明が重なり合っているようだ。なお、最も驚いたのは、メキシコシティが元は大きな湖の真ん中に浮かんだ都市だったことである。

 

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あちこちの道路沿いに、タコスやトルタと呼ばれるサンドイッチの屋台が出ている。一つあたり10〜20ペソ弱くらいが相場といったところだろうか。100円弱くらいだ。屋台の人たちは英語を全く喋れないことがほとんどだから、最初は本当に身振り手振りで伝えなくてはいけなかった。OneやTwoですら通じないことがしばしばあった。

しかしまあこうも暑い中、よく鉄板の近くに長時間いられるなと思う。

 

また、ピーマンのように見える野菜が実はハバネロで激辛だったという落とし穴にも何度か遭遇し、そういう日は大抵胃が刺激に耐えきれなくてお腹を壊した。

 

 

三泊ほどそうしてメキシコシティに滞在した後、グアナファトという町に移動することにした。

グアナファトは、ディズニー映画「リメンバーミー(原題Coco)」の舞台と言われている場所である。中南米はスペインの植民地になっていた影響で、コロニアル様式という様式の都市が多い。そのコロニアル様式というのが、皮肉にもカラフルで美しいのだ。グアナファトも斜面地に形成されたコロニアル様式の町で、メキシコシティからはバスで北の方に4時間ほど行ったところにある。

 

グアナファトまでのバスは、今までに乗ってきたどんなバスよりも快適だった。すごく綺麗だし、席が広いし、フットレストは足全体を支えてくれるようになっているし、飛行機みたいに映画が見られるモニターがついているし、トイレも車内にあった。バスに乗り込む際にはペットボトルの飲み物もくれた。

 

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バスがメキシコシティを離れていくと、だんだん町の景色が変わってくる。斜面地にびっしりと並んだ長方形の家々は遠くから見ると迫力があった。一方で近くの方に注意を向ければ、とても裕福とは言えないような環境の家々が散見された。

 

さらにしばらく進むと、右も左も荒野になってくる。僕が感動したのは、そこに本当にサボテンがたくさん生えていたことだ。遠くの方にまでサボテンが生えているのが見える。そうして僕はようやく「ああここはアメリカ大陸なのだな」と感じた。そこでは、小さな島国には無い、寛容さと冷酷さの入り混じった壮大なエネルギーが全てを支配しているように感じられた。

 

バスターミナルに着くと、そこからローカルのバスに乗って中心部まで移動した。宿にたどり着くと、もう日が暮れていたので外に出ることはせずそのまま眠った。

 

 

 

3. 生活の灯火

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起床後にシャワーを浴びてから、町へ繰り出した。

谷間に位置するメインストリートはくねくねと何度も曲がり、そこから左右へ、つまり丘の方へ登っていく細い道が伸びている。丁寧に刈り込まれた木々と小さな噴水からなる公園に何度か出くわした。刺すような日差しの中では、このような公園はオアシスだった。ベンチで休む人々も多く、涼やかな日陰の中で、爽やかさと賑やかさが同時に肌を撫でた。都市計画が活きていると感じた。繰り返すようだが、これがコロニアル様式であるのが皮肉な気がした。

 

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また、昔は水道や坑道として使われていた地下空間が、車道や歩道として再利用されているため、その元々の地形とあいまってグアナファトの三次元空間をより一層複雑なものにしていた。

 

以前にヒッチハイクで長崎に行った時、その高低差のある独特な町を魅力に感じていると、現地に住む人に「住んでいる人からしたら不便なだけ」と言われたことがあるから、一概に手放しで褒めてはいけないのかもしれないが、グアナファトは長崎同様、その独特な空間構成のおかげで歩くのが非常に楽しかった。ここまで町歩きが楽しかったのは、他にヴェネツィアくらいのものだったと思う。

(余談だが、長崎に住む人にオススメのちゃんぽん屋を聞いたら、「長崎ちゃんぽん」と返ってきたことがある。)

 

 

 

ピピラの丘という見晴らしの良い場所から、グアナファトの町を一望する。斜面に敷き詰められた極彩色のモザイクはカラフルな絵を形成していて、そしてそのモザイクタイルの一つ一つに人々の生活が宿っているのだと思うと、人々の営みの歴史の重さがひしひしと伝わってくるようだった。

 

それから、日本人の方が最近オープンしたパン屋さんに行って、メキシコでパン屋を始めるまでの経緯を聞かせていただいた。

そのお話を聞いて、僕はこれから待つ自分の人生に思いを馳せながら、ゆっくりと流れていくメキシコのお昼を、美味しいケーキとデトックスジュースとともに過ごした。

 

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日が沈んでいく。街灯の明かりが、石畳の路面に薄く映り込み、町は活気を増して行った。中心部にある劇場と公園の周辺には人がたまりはじめ、レストランの屋外席でディナーを楽しむ人も出てきた。練り歩きの音楽隊が、ラテンチックなサウンドを薄暗くなった空に向かって響かせていた。小太鼓の小刻みなリズムに共振して、僕のテンションも高くなっていった。

 

ピピラの丘に再び登って、次第に青く染まっていくグアナファトの夜景を見つめた。

そこには、無数の生活が灯っていた。

 

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〈あとがき〉

全くの余談なのですが、もう一個ブログを始めました。

村上春樹の『ノルウェイの森』についてひたすら考えていくブログです。

実は休学中に旅をしながらも、旅と同じくらい文学にハマっていて、そこでも色々考えたのですが、そんななんやかんやを『ノルウェイの森』を題材に論じて行くつもりです。

よかったらぜひ。

 

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