【インド編⑤】バラナシ・サトナ・カジュラホ
Googleマップで位置確認をする。
その時僕は信じられないものを目にする。
画面に映る現在位置を示す青丸はサトナ駅にぴったり重なっている。
理解するのに時間が必要だった。
そう、まさに今サトナ駅に到着していたのだ。
僕は急いでベッドから降り、必死になって狭い車内を駆け抜けホームへ出た。
《前回のあらすじ》
バラナシで27歳インド人ホームレス〈タカシ〉とあった僕は、彼の火葬場を見る態度に風景に対する敬意を持たない自分について気づかされ、予定よりも早くバラナシを去った。
1.カジュラホとは
次なる目的地はカジュラホだ。
カジュラホには世界遺産の遺跡群がある。
この遺跡群は少し変わっていて、その壁を埋め尽くすレリーフの男女は、激しく互いを求めあっている。
もっと直接的に言おう。乱行している。なんともエロチックな世界遺産である。
僕がなぜカジュラホに行きたかったか、もちろん変な興味がなかったとは言い切れないが、そこには何かしら「生」についてヒントがある気がしていたし、そして何より『深夜特急』で沢木耕太郎が訪れた場所だったからだ。
バラナシからカジュラホまで数日に1本の割合で直通の列車が走っている。
しかし僕は一刻も早くバラナシを出たくて、その列車をキャンセルした。
直通の列車はない。とりあえずカジュラホの近くまで行こう。
『深夜特急』の中で沢木耕太郎は〈サトナ〉という町まで行って、そこからバスでカジュラホに到達していた。
ならば自分もそれで行こう、と思った。
サトナからカジュラホまで一日数本バスが出ていることは某ガイドブックや日本人のブログにも書いてある。
しかしそれがサトナのどこから出ているのか、何時に出ているのか、いくらかかるのか全く分からなかった。
宿を出ればインターネットも使えない。
だけど、もうここにはいられない。サトナまで行けばなんとかなるだろう。
2.間一髪サトナに到着
バラナシからサトナまで向かう寝台列車の中で早朝に目が覚めた。周囲は皆眠っている。
iPhoneで時刻を確認すると6時だった。
サトナ駅はまだだろうか。
ふと、iPhoneが何かのWi-Fi電波をキャッチしているのが目に入った。
おかしい。インドの平野を走る電車の中でWi-Fiの電波などキャッチできるはずもない。
体を捩って窓の外を見ると、列車は現在どこかの駅に停車していることがわかった。駅舎内から出る何かのWi-Fiをキャッチしていたのだ。
サトナはあと2駅くらいだろうか。
Googleマップで位置を確認する。
その時僕は信じられないものを目にする。
画面に映る現在位置を示す青丸はサトナ駅にぴったり重なっている。
理解するのに時間が必要だった。
そう、まさに今サトナ駅に到着していたのだ。
慌てた僕が、通路を通ったインド人に「サトナ!?」と聞くと、そうだという。
急いでベッドから降り、必死になって狭い車内を駆け抜けホームへ出た。
しまった、違う人のサンダルを履いてきてしまった。僕は再び狭い寝台列車の中に入ってサンダルを交換してまたホームへ出た。
本当に間一髪サトナについた。
なぜちょうど目が覚めたのかはわからないが、あと5分遅れていたら確実に降り過ごしていた。
3.サトナからカジュラホ行きのバス
駅員らしき人にカジュラホへのバスに乗りたいと伝える。
すると、バスステーションへ行けと言いながら、遠くの方を指差す。どうやらバスは駅前からは出てくれていないようだ。
駅前にはたくさんのリキシャーワーラー(リキシャーの運転手)がいる。
値段交渉をして、リキシャーに乗り込んだ。
ほんの5分ほどでバスステーションまで着いた。
しかしどのバスがカジュラホ行きかわからない。
一番人が集まっているバスのところへ行って、チケット売りらしき人物に「カジュラホ?」と聞くと「イエス」という。
「いくら?」と聞くと630ルピーだという。1ルピーは約1.8円程だったから、1000円近い。インドの物価からしたら高すぎる。
青山やどこかでランチしようものなら1500円くらいはしそうな高級なナンとカレーのセットすら200円以下で食べられるのがインドだ。
僕はオーケーオーケーと言いながら、横を通りすがろうとした身なりの良い一般のインド人を捕まえて
「カジュラホまでは大体いくらくらいかかりますか?」と聞くと
「多分150ルピーくらいだよ」
という。
僕はそのままチケット売りのおっちゃんにニヤリと笑いかけた。
おっちゃんもまた、お前には負けたよ、というようにニヤリとした。
僕もなかなか値段交渉に慣れたものだ。
150ルピーを渡すと、30ルピー返された。
結局本当のところ120ルピーだったのだ。
4.カジュラホへ到着
車内には日本人はおろか観光客は一人もいない。
ぎっしりインド人が詰まっている。
僕は一番前の窓際の席に乗せられ、バックパックを抱えて身を縮めた。
隣には警察官のおっちゃんが座ってきた。
サトナの街を抜けると荒野が広がり、カジュラホに近付く頃には自然国立公園らしき緑が広がっていた。
[これは荒野]
警察官のおっちゃんが、なにか白くて硬い豆の破片のようなものをくれて食べろ、という。
恐る恐る食べてみると、それはココナッツだった。
あまりにバスの時間が長いので、流れる景色を見つめ音楽を聴きながら、今までの人生について考えていた。
どうやら人間というのは本当に暇になったら今までの人生について考えるようにできているようだ。
音楽はきゃりーぱみゅぱみゅの『にんじゃりばんばん』だった。
多くの人に経験があると思うが、旅先で聴いていた音楽は共感覚によってその土地と結びつけられ、その音楽を聴くとその土地の風やにおいをありありと感じることができる。
あるいは人によって、初恋や受験期の辛い経験を思い出させる曲があるかもしれない。
僕の場合、ハワイは映画パイレーツオブカリビアンのBGM『彼こそが海賊』であり、ニューヨークはBUMP OF CHICKENの『66号線』、ロンドンは映画ララランドの劇中歌『Another Day of Sun』、そしてインドはきゃりーぱみゅぱみゅの『にんじゃりばんばん』。
なんとも不思議な組み合わせだ。
バスはカジュラホの中心部に到着した。
カジュラホ、そこでは僕が人生で初めて「殺される」と感じた体験が待っていた。
次の記事はこちら↓
よかったらスターも押してね!